原子力安全庁のホームページ作成予算が1.4億円?

原子力安全庁のホームページ作成予算が1.4億円?

YOMIURI ONLINEのニュースによれば、2011年度第3次補正予算案に計上された原子力安全庁のホームページ作成予算が1億4千万円とのことです。これがWeb制作者界隈でちょっとしたニュースになっています。

1.4億円のホームページ予算が高いのか


1.4億円が高いか安いかを考える上で、まずはこの価格で作れるコンテンツを検証してみます。

2010年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」の制作費が1話あたり6千万円だそうです。また民放のTVドラマの制作費は1話4〜5千万円とのこと。1.4億円は、大河ドラマ2話分、民放ドラマ3話分程度の費用のようです。ちなみに人気海外ドラマ「24 -TWENTY FOUR-」は1話あたり4億円だそうです。

もちろんドラマの制作費とホームページの制作費を単純比較はできません。あくまで参考としてですが、良質なコンテンツを製作するには、それなりの費用がかかることは理解する必要があります。

また、広告費用で考えてみた場合はどうでしょうか。読売新聞朝刊の全面広告費用は約4千8百万円(全国版、発行部数 約1千万部)だそうです。掲載回数によるディスカウントもあるようですが、概ね3回分の掲載費用に該当すると言えます。テレビCMは、全国放送の人気番組のスポンサー契約だと1クール(約3ヵ月)で1億円とも数千万円とも言われます(放映のみ、制作費などは含まず)。

全国区・全世代的に広報活動を行うとすれば、費用もそれなりに必要であることは議論の余地はありません。無駄遣いは絶対に許されませんが、必要性の判断は的確に行わなければなりませんよね。

私のような市井の制作者には、1億4千万円もの予算は大きすぎて、適正な成果物が想像できません。ただそれは私の感覚であって、それだけが正しいとは言えないと思います。

Web制作業界ではトップクラスのクリエイターさんからお聞きした話ですが、某ナショナル企業のホームページ年間予算が2億円くらいだったとか。そう考えるとホームページの予算規模として1億4千万円は高い部類だが、法外というほどではないようです。もちろん目的が違えば費用感も変わるので、これも単純比較はできません。ちなみに前述のクリエイターさんは、今回の件に関して「半額くらいに抑えたら」と仰ってました。

原子力関連情報の重要性

今年(2011年)は未曾有の大震災と原発事故のため、国の原子力政策や福島第一原発の事故収束状況、除染問題などに注目が集まっています。それは店頭で販売されている食品の放射線量測定などにも広がっています。誰もがわからないから不安になっていると感じています。しかし残念ながら、国民にわかりやすく適切に情報が提供されているとは言えない状況です。わからないことが不安の連鎖を呼び、風評となって被災地を襲っています。

何が危険か、どこまでが危険か、どのレベルで除染や規制が必要か、それがわからず右往左往し、ともすれば極端な行動に走りがちです。この連鎖を止めるためには、正しい情報を周知し、国民が理解し、妥当な行動をとるよりほかありません。第一歩がわかりやすく信頼に足る情報をきちんと提供することですよね。原子力の専門家をホームページのチームにも配置し、わかり易く伝えられるライターに依頼し、必要があれば動画やアニメーションによる説明も加える。そんな情報を継続的に発信していくことを考える必要があります。そのためのコストが1.4億円ということであれば、それは消して高い買い物ではないと考えます。

問題とすべきは予算額(1.4億円)ではなく、投資費用と得られる効果がバランスするか(費用対効果)のはずです。もちろん、何のための1億4千万円なのか、原子力安全庁にそれができるのか、できあがったホームページがコストと目的達成に見合うものになっているかなど、厳しく監視する必要はあります。

ホームページは数十万円程度で開設できる?


茂木代議士のサイト

ところでこの問題を提起した自民党 茂木代議士は「ホームページは数十万円程度で開設できる」とも発言しているようです。1億4千万円が適正かは別として、数十万円のコスト感にはかなりの違和感を感じます。

数十万円の費用で作成できるホームページは、中小・零細企業や個人商店のコーポレートサイトの規模です。ページ数が10〜20ページ、アクセス数なら月間で数千ユーザー/数万PVが想定される標準ケースではないでしょうか。この規模のホームページでは、専任の担当者はまずいないです。意識としては「まずはホームページを作ってみる」「ホームページがないのも困るが、どうしていいかもわからない」という企業さんも多いかと思います。茂木代議士の個人ホームページも、規模感としてはこのクラスに属すると考えられます。

仮にも国政を担う、それも危機的状況にある原子力関連政策を扱う原子力安全庁がもしこのクラスのホームページを想定しているならば、開設しないほうがマシですよね。使命や目的に合わせた規模感・予算感が必要です。茂木代議士の発言は、自分の感覚(ひとりの代議士規模)と国政規模を混同しているとしか考えられません。自分感覚の落とし穴を危惧せずにはいられません。

まとめ

  • 1億4千万円という数字だけでは何も判断できない
  • 大事なのは「ホームページの使命・目的」と「費用対効果のバランス」
  • 個人の費用感は時には疑う必要もある

ホームページ予算の大小を判断するには、目標設定をしっかり行い、それを達成するための適正コストを検討することが必要です。この点においては発注者も制作サイドも評価する方も、同じゴールを目指すパートナーです。そういう意識で切磋琢磨しながら協業していきたいですね。


プロフィール

矢部 靖人(hamnaly)

いくつかの制作会社でWeb制作やDTPから営業まで経験し、2010年に独立。現在はhamnaly(ハンナリィ)という屋号で、Web制作を中心に地元企業のWeb活用を応援する事業を模索中。理想は高く現実は厳しく、下請け制作を中心に生きています。Knock! Knock! 主催。

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